速さは手の動きだけでは決まらない
実習の時間内にどうしても仕上がらない日が続くと、自分の手が遅いせいだと思い込んでしまいがちです。ところが人の作業をよく眺めていると、手の速さそのものにはさほど差がないことに気づかされます。
差が出ているのは、次に何をするかを決めるまでの間合いのほうだったと後になって分かってきます。迷っている数秒が幾度も積み重なり、終わってみると思いのほか大きな開きになっていたということです。
早く動ける人は、火にかけている間に洗い物を進め、待つだけの時間をほとんど空けずに使っています。何もしていない時間を減らすだけで、同じ手の速さであっても仕上がりの時刻は結局ずいぶん変わります。
道具や器の置き場所をあらかじめ決めておくと、探すために手を止める場面が驚くほど減っていきます。使う順に道具を並べ替えておくだけでも、体の動きの無駄が目に見えてはっきり少なくなっていきます。
段取りを組み替えて生まれる余裕
段取りを組むときは、工程を紙の上に書き出して、待ち時間の位置を先に見つけておくと役に立ちます。その空いた時間に何を入れるのかを決めておけば、本番の日は何も考えずに手を動かすだけで済みます。
同時に進める工程を増やしすぎると、かえって注意が散ってしまい、どれもが中途半端になってしまいます。重ねてよいのは待ちの時間だけに限り、手を使う工程は一つずつ片づけるほうが結局は早く終わります。
料理を出す時刻から逆算して、どれだけ前に何を始めるかを決めておく癖をつけると落ち着いていられます。逆算の見立ての精度は回数を重ねるほど上がっていき、慌ててしまう場面も自然と少しずつ減ります。
調理師専門学校では、資格の勉強と並んで、時間内に仕上げるための段取りも繰り返し鍛えられていきます。手の速さより先に段取りのほうを直すという順番を知ると、そこからの伸び方がまるで変わってきます。
まとめ
手が遅いと言われ続けた原因が、実のところ段取りの組み方にあったのだと知ったときの驚きは今も忘れられません。速さを本気で求めるのであれば、動きを急がせるよりも先に、待ち時間の使い方を見直すほうが近道になります。
段取りは生まれ持った才能などではなく、書き出して確かめて直すという地道な作業で誰にでも組み立てられます。一度うまくいった流れを覚えておけば、まったく別の献立に対しても形を変えながら応用していくことができます。
余裕が生まれてくると、味を見る回数や盛り付けに使える時間が増え、仕上がりそのものが目に見えて良くなります。段取りを整えることは、ただ速さのためだけでなく、一皿の質そのものを支えてくれる確かな土台にもなっています。